高校生からの質問です。AIが急速に発展している現代において、大学受験のために勉強するのか、大学で何を学ぶべきなのか、などに関して従来の延長線上で決めることに不安を感じています。何かアドバイスをください。
不安は妥当です。ただし、結論を急いで「大学受験はもう古い」「AIがあるから専門知識はいらない」と考えるのも危険です。むしろ、受験勉強と大学選びの意味を、少し組み替えるのがよいと思います。
まず前提として、AIの発展は一時的な流行ではありません。Stanford の AI Index 2025 は、高性能AIを使うコストが急速に下がり、利用の障壁が低くなっていると報告しています。一方で、AIは複雑な推論や高精度が必要な場面ではまだ限界があるとも指摘しています。つまり「AIを使う人」と「AIに使われる人」の差が出やすい時代です。(Stanford HAI)
高校生への助言としては、次のように考えるのが現実的です。
受験勉強そのものが人生の目的ではありません。しかし、読解力、数学的思考、英語、記憶力、集中力、答案を書く力は、AI時代にもむしろ重要です。
AIを使えば答えらしきものは出ます。けれど、その答えが正しいか、前提がずれていないか、どこが浅いかを判断するには、自分の基礎学力が必要です。OECDも、生成AIは明確な教育目的があると学習を支援できるが、単に作業を外注すると「成果物は良く見えるが学習が起きない」危険があると述べています。(OECD)
だから、受験勉強は「AIに代替される作業」ではなく、AIの出力を評価できる人間になるための訓練だと考えるとよいです。
「将来どの職業が残るか」だけで学部を決めるのは危ういです。職業名は変わります。むしろ見るべきなのは、次の3つです。
第一に、深い専門分野。 医学、法学、工学、情報、経済、教育、心理、生命科学、歴史、言語、デザインなど、何でもよいですが、「AIに聞けば済む知識」ではなく、その分野の人が何を難しい問題だと見ているかを学べる分野です。
第二に、数理・データ・プログラミング。 全員がAI研究者になる必要はありません。しかし、統計、データの読み方、簡単なプログラミング、AIの基本的な仕組みは、多くの分野で共通の道具になります。WEFの Future of Jobs Report 2025 でも、AI・ビッグデータ、サイバーセキュリティ、技術リテラシーが成長するスキルとして挙げられています。(World Economic Forum)
第三に、人間・社会・言葉を扱う力。 AIが発展しても、何を問題とするか、誰のために作るか、どう説明するか、どこに倫理的な問題があるかは人間側の判断です。同じWEFの報告では、分析的思考、創造的思考、柔軟性、好奇心、生涯学習も重要なスキルとして示されています。(World Economic Forum)
つまり、大学での理想形は、 「専門分野 × AI・データ × 人間理解」 の組み合わせです。
たとえば、
工学 × AI × 環境問題 法学 × AI × プライバシー 文学 × AI × 言語表現 医学 × AI × 患者との関係 教育 × AI × 学習支援 経済 × AI × 労働市場 デザイン × AI × 人間の使いやすさ
のように考えると、学部選びが少し具体的になります。
「AIに奪われない仕事は何か」と考えると不安が大きくなります。完全に予測するのは難しいからです。
代わりに、次の問いで考える方がよいです。
自分は、AIを使ってどんな問題をよりよく扱える人になりたいか。
これはかなり違います。
たとえば、英語が得意なら「翻訳者は不要になるか」ではなく、「AI翻訳を使って、異文化間の誤解を減らす人になれるか」と考える。 数学が得意なら「計算はAIがするから不要」ではなく、「モデルの前提を見抜く人になれるか」と考える。 絵や文章が好きなら「生成AIに作られるから意味がない」ではなく、「何を表現する価値があるかを設計する人になれるか」と考える。
AI時代には、作業の一部は自動化されます。しかし、問題設定、判断、責任、文脈理解、他者との関係づくりは簡単には消えません。
高校生なら、今は次の4つを優先するとよいです。
国語・読解 長い文章を読み、主張と根拠を分け、曖昧な表現を見抜く力。AIの出力を検証する力になります。
数学 公式暗記だけではなく、条件を整理し、抽象化し、筋道を立てる力。AI・データ・経済・科学の土台になります。
英語 AI翻訳があっても、英語で一次情報を読む力は強いです。AI、科学、国際問題、ビジネスの情報は英語で先に出ることが多いです。
情報・プログラミング・統計 専門家レベルでなくても、AIがどう動くか、データにどんな偏りがあるか、簡単な処理を自分で試せる力は重要です。文部科学省も、生成AIの活用に関して、情報活用能力や情報モラルを含む教育の重要性を示しています。(文部科学省)
偏差値は完全に無視できません。大学受験では選択肢を広げる道具だからです。ただし、それだけで決めると、AI時代には合わない場合があります。
見るべきなのは、次のような点です。
研究室やゼミで実際に何をしているか。 学生がプロジェクトを作れる環境があるか。 データ、実験、フィールドワーク、制作、議論の機会があるか。 他学部の授業を取りやすいか。 AIや情報系を専門外の学生も学べるか。 先生や先輩の活動が外に開かれているか。
大学の価値は、授業動画だけではありません。よい問いを持つ人たちの近くにいられること、難しい問題に時間をかけられること、自分の成果物に批判を受けられることにあります。
高校生がAIを使うなら、次の使い方がよいです。
「この問題の答えを出して」ではなく、 「私の考えのどこが弱いか指摘して」 「別解を出して」 「この英文の文法構造を説明して」 「この小論文に反論して」 「この数学の解法で、どの条件を使っているか整理して」 と使う。
逆に、最初から丸投げして完成物だけ受け取る使い方は危険です。OECDは、AIが学習に有効なのは、認知的努力を置き換えるのではなく、学習を豊かにする目的で使われる場合だと述べています。(OECD)
まだ将来がはっきりしないなら、早く狭い専門に閉じすぎる必要はありません。文系・理系のどちらでも、次の条件を満たす進路は比較的強いです。
基礎学力を鍛えられる。 英語と情報を学べる。 ゼミ・研究・制作・実験などで自分の問いを作れる。 他分野と接続できる。 卒業までに何か公開できる成果物を作れる。
高校生の段階で「一生の正解」を決める必要はありません。むしろ、変わり続ける時代に、学び直せる人になることの方が大事です。WEFの報告でも、2030年までに労働者のスキルの大きな部分が変化すると見込まれており、継続的な学習が重要になっています。(World Economic Forum)
大学受験のために勉強する意味はあります。ただし、それは「いい大学に入れば安泰」という意味ではありません。
これからの勉強の目的は、 AIに答えを出させる人になることではなく、AIの答えを評価し、問いを立て、現実の問題に接続できる人になることです。
そのために、高校では基礎学力を鍛える。大学では専門分野を深く学ぶ。同時に、AI・データ・言語・人間理解を横断的に身につける。
不安を完全になくすことはできません。でも、不安は「従来のレールを疑い、自分の学び方を設計し直すきっかけ」としては役に立ちます。今やるべきことは、受験勉強を捨てることではなく、受験勉強を自分の判断力を鍛える材料として使い直すことです。